重慶市

 

 

中国総局・野口東秀 

 

汚職摘発の裏側をのぞけば

 

司法腐敗の不正義社会

 中国の直轄市(省と同格)、重慶市で今、「黒社会」(暴力団)狩りが空前の規模で進んでいる。世間の絶賛を浴びる今回の動きを裏側からみれば、中国の政治、社会の特質が2つ浮かんでくる。

 1つは、正義の欠如である。

  重慶ではすでに、「黒社会」の関係者ら約3千人が摘発され、一部には死刑判決も言い渡されているという。問題はしかし、捜査のすさまじいばかりの広がりよ りも、その過程で明るみに出た実態にある。「公安」(警察)幹部が「黒社会」を保護下に置いて、弁護士や裁判官まで腐敗していたのである。

 逮捕された4人の「公安」幹部は長年、殺人や強盗、誘拐などの凶悪事件を意図的に放置し、同市の公安局副局長を16年間も務めた後に司法局長になった文強という男は、池の中に大枚2千万元(1元約13円)を隠していた。

 文強の弟の妻は、約30カ所の非合法賭博場を取り仕切っていて、20歳も年下の男性をはじめ16人の愛人を囲っていたとされ、「『黒社会』の女ボス」として恐れられていた。中国誌によると、文強から摘発情報を事前に入手し、法の網をかいくぐってきたという。

  さらには、裁判所の幹部や弁護士も、民事・刑事の裁判をカネでねじ曲げていた。解決屋と呼ばれた検察官上がりの弁護士は、 「公安」関係者を買収し、事件の行方を自由自在に操っていた。まさに、「商売(カネ)で黒社会を養い、権力で黒社会を保護」(中国誌)である。地元経済を 牛耳る議員連中も同じ穴の狢(むじな)だった。

 司法の腐敗は、胡錦濤指導部がその撲滅をお題目のように唱えているほどで、何も重慶に限ったことではない。公権力をかさに裁判官や検察官らに接触、民事・刑事の案件や裁判に影響力を与えると豪語する人物の存在は、記者(野口)も知らないわけではない。

 指導部入りの権力闘争

 もう1つは、中国政治にはつきものといえる権力闘争である。

 一連の摘発は、重慶市トップ、薄煕来党書記政治局員)の主導による。薄書記は、「東北の虎」(中国紙)の異名を持つかつての部下を遼寧省から呼び寄せ、公安局長に据えて陣頭指揮に当たらせた。地元の司法権力では地元の膿(うみ)は出せないと踏んでのことだ。

 だが、その動機をめぐり、「広東省トップの汪洋党書記政治局員)の追い落としを図った」(消息筋)との見方がある。汪書記は重慶で薄書記の前任者。「前任者はなぜ汚職を放置していたのかと批判できるカードを薄書記は手に入れた」(同)というわけだ。

 薄書記は腐敗捜査で国民的支持を得ており、「2012年の第18回党大会の指導部人事で、事件が汪書記の中央指導部入りにはマイナスの材料として使われる可能性がある」とささやかれている。

 ともに中央指導部入りを目指す2人のうち、薄書記は商務相も務め、次期首相候補の呼び声も高かったにもかかわらず重慶市に転出した。同じく地方からは習近平氏が国家副主席に、李克強氏が副首相に、と中央指導部入りを果たしており、薄氏としては胸中穏やかならざるものがあっただろう。

 相次ぐ江氏登場

 そうした中、9月の中国共産党中央委員会総会で、その習国家副主席の軍事委員会副主席就任が先送りされた。直後に、前国家主席の江沢民氏が建国60周年関連行事に相次いで登場し、江氏の写真も党機関紙、人民日報などに、胡主席と同じ大きさで掲載された。

 中国でトップになる条件は、最終的には軍の掌握にある。江派である習副主席の軍人事引き延ばしは、胡氏の影響力増大になる。

 「習氏の軍人事見送りは胡主席の権力固めが進んでいることを示す。江氏の連続登場は、この人事に対する不満の表明であり、影響力がまだあることを誇示する狙いではないか」と観測筋は見る。

 習副主席は習副主席で、「次期指導者心得」という対外イメージ作りを意図したともみられる欧州歴訪を10月に入って行い、ドイツのメルケル首相には江氏の著書まで贈った。この外遊についても、「軍人事への不満の表れか」(観測筋)との憶測が流れている。

 昨秋以来、「反腐敗」の旗印の下で続けられていた「広東閥」たたきの背景についても、「広東閥は江派が多いから」という解釈が流れ、江派と目された深セン市長の汚職摘発なども胡氏の権力固めという文脈でとらえられている。

 汪書記は李克強・副首相、李源潮・党中央組織部長ら胡派の中核でもあるから、重慶の捜査は、胡派VS.江派という大きな構図でもくくれそうだ。中国では汚職摘発の裏に権力闘争あり、である。(のぐち とうしゅう)